大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和26年(う)912号 判決

控訴人 被告人 斎藤誠一

弁護人 遠藤一

検察官 西海枝芳男関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人遠藤一の控訴趣意は記録編綴の同弁護人名義の控訴趣意書の記載と同一であるから茲に引用する。

控訴趣意第一、二点について

しかし記録を精査し、原判決摘示の証拠を綜合考察するに原判示事実は認定しうるところであつて、原判決には事実誤認を窺うべき事由や採証法則違反や法令の誤り等は存しない。所論は結局独自の見解に基く主張ないし原審の採用しない証拠に立脚する主張であつて採るを得ない。論旨は理由がない。

同第三点について

記録を調査するに医師佐藤直行作成の診断書は弁護人の不同意のため証拠調は実施せられず終結となつたが右書面は昭和二十六年四月五日原審第三回公判期日に右医師佐藤直行を証人として尋問した際原審検察官は該書面を同人に示して夫れに基き尋問したことは洵に明らかである。しかし結局証拠とならなかつた右書面について証人に示して尋問が行はれこの供述を証拠に採つたからと言つても判決に影響を及ぼすべき明らかな法令違反があつたと断ずることは出来ない。論旨は採用しえない。

同第四点について、

弁護人が公判廷で「本件公訴事実は其の証明不十分で本件事実は究明の上無罪の裁判を求める」旨の弁論があつたとしても右は裁判所が刑事訴訟法第三百三十五条第二項の判断を示さなければならない事由の主張に該当しないと認めるべきであるから原判決がこれに対し何等の判断をも示さなかつたのは当然であつて毫も違法の点は存しない。論旨は理由がない。

以上のとおりであるから刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却すべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 蓮見重治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例